透析開始後15分から30分をピークに白血球が低下するという事象をロイコペニアといいます。
ロイコペニアとはロイコサイト:Leukocyteが”白血球”、ペニア:Peniaが”減少や欠乏”という意味になります。
もともとはペニアはギリシャ神話での女神であり、日本でいう貧乏神です。
貧乏神なので欠乏や貧困という意味合いでペニアが言葉として使われているんです。
もっと面白いのがペニアの子がじつはエロスという神様になります。まっどうでもいいですね・・・
本題にもどるとロイコペニアが透析で起こる事があるとい事です。
1990年代に透析時に再生セルロース膜によってロイコペニアという現象がおこると言う事、また表面改質セルロース膜によって改善するという論文がだされ、ロイコペニアがどうして起こるのかが解明されました。
要は血液の補体活性が透析膜によって励起されて起こるというものです。
その機序は他サイトでも解説されていますが、セルロース表面の水酸基(OH基)が補体を活性させるというものです。だからOH基にポリエチレングリコールをを付けて血液がOH基に触れないようにしたPC膜や現在でも使用しているOH基にアセテートを3つつけたCTA(セルローストリアセテート)が使われているんですね。
調べてみるとセルロース膜でロイコペニアが起こると説明している論文やサイトが大多数で、あたかもセルロースだけがロイコペニアを起こすと錯覚してしまいますが、補体を活性させる体外循環ではすべてに起こりうる現象なのです。
セルロースだけで起こるわけじゃないロイコペニア
そこで調べてみました。
旭化成の特許に関する記述でPVPの架橋度は85%〜95%が良いとされ、100%にするとPVPの溶出は下がるがロイコペニアの発生頻度は上がる
https://patents.google.com/patent/JP2010233987A/ja
PVPの混和比率が27%を超えると溶出量が増えるが18%以下では膜表面のPVP濃度が低下して、ロイコペニアが発生すると書いてあります。
https://www.google.com.na/patents/WO2013015046A1?cl=ja
他にも透析では透析液によって補体が活性される場合もあります。
膜材質だけではなく総合的に発生するのです。
PVPとは?
そこで気になるのがPVPですね、
PVPとはポリビニルピロリドンといって専門用語では可塑剤といいます。
PVPは水に良く溶けるので水に解けない合成高分子に混ぜて”親水性”を持たせる大事な化合物なのです。
透析では膜の中空糸を介して血液と透析液を流しますが、もし膜が”疎水性”(水と馴染まない)性質だったら、尿毒素などは抜けないのです。
そればかりか、PVPは水と馴染むので膜の表面に水の層ができ、血液の膜表面が直接触れない=血液の補体系が活性されにくいという大事な機能もあります。
だから膜を水によく馴染む”親水性”にする事は重要なのですが、PVPは水によく溶けるので血液中に溶出するのも問題なのです。
かといって溶出させないようにPVPの量を下げれば補体も活性するし・・・と現在はこういった難しい課題をメーカーさん達は日々研究されているのです。
ロイコペニアの発生機序と酸素飽和度の低下
さぁこれで体外循環なら少なからずロイコペニア現象がおこる事を認識できたなら、その発生機序について勉強します。
- 透析膜に血液が触れると補体が活性
- 活性化した補体はマクロファージや単球を励起(レイキ)させ各種メディエータが産出され炎症拡散
- 白血球も活性化され
- 粘着分子を持った白血球は返血側から返血され、右心房ー右心室ー肺動脈と経て肺毛細血管に流入する。
- 粘着分子をもった白血球が肺毛細血管の内皮細胞と接着する
- 結果的に末梢での白血球数が低下する(白血球が肺にたくさん詰まる)
- 酸素飽和度が下がる
- 末梢での白血球低下は骨髄での白血球動員を促進してすぐに元に戻る
上記のような反応でロイコペニアは発生するのです。
また、肺の毛細血管に白血球がたくさん集まるので肺でのガス交換が阻害され、酸素飽和度が低下する事があります。
いずれにせよ補体活性が元になっているので膜や透析液よる補体活性の強度により症状の程度は異なってきます。
ロイコペニアと酸素飽和度低下の対策について
補体が活性しておこる事象なので、対策はできる限り補体を活性させないようにする事が対策になります。
体外循環なので、少なからず血液と合成高分子の接触による弊害はあります。
- 膜素材を変えてみる
補体活性は完全に個人差があります。もちろん膜素材の相性も個人差があります。
これが一番という素材は実はありません。
しいて言うなら
CTA(セルローストリアセテート膜)
EVAL(エチレンビニルアルコール膜)
PMMA(ポリメチルメタクリレート膜)
が補体活性が低いと言われています、しかし、上記の膜でも確実ではありません。場合によってはPS(ポリスルホン膜)で治る人だっています。
また、同じPS膜でも旭化成がダメでもフレゼニウスは大丈夫!!みたいにメーカーによっても違いがあります。
膜表面の状態によっても変わるので色々試してみる事が重要です。 - はじめは透析液は流さずにする
原因は補体活性の強度なので、できる限り血液に接触負荷をかけないようにするというのも効果的です。
なので、補体が活性化してピークが過ぎる30分程度は透析液を流さずに(ECUM)、それ以降でHDに切り替えるとうまくいく患者様がいます。
できるだけ接触反応で活性する補体を低値に抑えるという工夫です。
ピークを迎えた補体はそれ以上は増えませんし炎症励起は継続しません、ですので最初の15分から30分だけの工夫で解決できる場合があります。 - ステロイド薬を使用する
もっとも効果が期待できます、ステロイド薬(プレドニンなど)は炎症作用を抑える働きですので、補体の活性やサイトカイン経路のブロックを行います。
ですのでロイコペニアも防ぎますが、持続的に薬剤の投与は・・・・です。 - 症状が軽度なら経過観察
この場合がもっとも多いと思います。
なんなら、ロイコペニアにきづかずたまに付けた酸素飽和度モニターでSPo2の低下で気づく事があるくらいです。
特に重症な症状が出ない場合は経過観察で良い場合があります。
また、比較的症状が軽度(少しだけ苦しいとか)の場合は酸素吸入などを行ったりと対症治療を行う程度で大丈夫な場合もあります。
どちらにせよ、医師の指示と判断のもと行いましょう。