透析時の抗凝固薬とACT

活性化全血凝固時間(activated whole blood clotting time:ACT)は、内因系凝固の接触相を活性化剤によって活性化しフ ィブリン形成までに要する時間を全血を用いて測定し主にトロンビン活性を反映します。

 難しい言い方をしましたが簡単にいうと全血をカオリン(外因系ですが)や珪藻土(セライト)という土に混ぜて、固まるまでの時間を計測したのものがACT(秒)なわけです。

ACTの正常値 90〜130秒

測定する機器も代表的なもので、ヘモクロン、ヘモクロンJr、アクタライク、ACTPlus、HMSなどがあります。

ヘモクロンやアクタライクは似たような計測方法ですが、ACTPlusやHMS、ヘモクロンJrなどは特徴的な計測方法で他の機器とのACT値が若干異なる(数秒違う)と言われています。

 

 

透析室でのACT測定の意義

 透析では体外循環により、血液と回路表面、チャンバーのメッシュ部分、チャンバー上部の空気接触面、中空糸との接触などが血液凝固の内因系接触相カスケードを活性化させます。

 

 それらは珪藻土(セライト)と血液を混ぜるよりは遥かに低い活性なのですが、透析4h時間となるとやはり血液が回路内で凝固してしまう事があります。

ですので、透析治療では未分画ヘパリン(ヘパリンを分子量によって分けていないもの)、低分子ヘパリン、メシル酸ナファモスタット、場合によっては、アルガトロバン水和物などを使った血液の抗凝固が行われます。

 その中でも未分画ヘパリンは一般的に使用されていて回路凝固が起こらないように最初のヘパリン投与(ボーラスやワンショットと呼ばれる)で全身ヘパリン化をして、その抗凝固を維持させる為に維持ヘパリンを投与しているわけです。

 透析で用いるACTの検査はヘパリン化したACTの値が透析体外循環にとって良い値になっているか?の指標となります。

おおよそですが、180秒から220秒程度に設定されている施設が多いようです。

 

抗凝固薬と凝固カスケード

ここでは抗凝固薬の違いによる抗凝固カスケードの違いと特徴について記述します。

未分画ヘパリン

最も透析治療ではオーソドックスなヘパリンだと思います。商品名は数種類あります。

分子量は6000〜25000Daで分子量によってヘパリンを分けていないものを未分画ヘパリンといいます。
 製造方法は哺乳類動物の肺や腸組織から抽出・精製されています。その由来臓器や種類によっては分子量が異なるのもの特徴で、分子量の違いは抗凝固性能の違いとなりえます。

 

作用機序

アンチトロンビンⅢ(ATⅢ:分子量は65000Da)と未分画ヘパリンが結合して図のカスケード因子の活性を阻害します。

なんか全般的ですよね。これが特徴です。

まだまだわかっていない事もあるみたいなんです。

図でもわかる通り、トロンビン活性を阻害するので、トロンビン活性を反映するACTによって評価する事が可能となるんです。

 

半減期

半減期は1.5時間程度

 

低分子ヘパリン

未分画ヘパリンを分子量の違いによって選り分けて、その中で、分子量2000〜9000Daのものを低分子ヘパリンと言います。

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ヘパリンはヘパリンでも分子量が違うので未分画へパリとは異なったうごきかたをします。

作用機序

こちらもATⅢと結合はするものの、直接トロンビン活性の阻害はせず、図のカスケードのようにXa因子の活性を阻害します。

低分子ヘパリンは抗トロンビン作用がほとんど無いので未分画ヘパリンに比べてACTの延長が少なくACTで抗凝固のモニタリングができません。

ここで、初心者などはえ?っ思いませんでしたか?
ACTが伸びない=抗凝固してるのか?です。

結論から言うと抗凝固はできています。

そもそもACTはセライト(珪藻土)などで高度な活性を血液に与えるのですぐに血液は固まります。
 血液透析などでの接触活性はそこまで活性が強く無い低分子ヘパリンでも抗凝固機能を発揮し透析治療を続行できるというわけです。

しかし、低分子ヘパリンでACTを測ろうとすると、抗トロンビン作用が小さい為に、ACTの強いセライトの活性では、すぐに血液が固るのです。
 だから低分子ヘパリンのACTモニタリングはできないのですが、逆に言うと低分子ヘパリンはトロンビン活性が低いので出血傾向の増強が少なくて済みます。。

半減期

3時間程度

 

メシル酸ナファモスタット

合成蛋白酵素阻害薬で分子量539Daです。
おおよそ30〜40%程度透析により除去されます。

たまに薬剤に対するアレルギー反応(著しいショック)を起こす方がおられるというのが私のイメージです。

半減期が短く全身抗凝固化という概念で使用しません。
ですので初回投与は行わず、イメージとしては投与している回路内だけでの抗凝固をおこいます。

 

陰性荷電の膜素材(PAN69、イムソーバ、LDL吸着、セプザイリスなど)だとメシル酸ナファモスタットは膜素材に吸着され回路内濃度が下がると言われています。

しかし、実際には陰性荷電の膜素材は血液のCaなどを補足して電気的に安定する為メシル酸ナファモスタットが吸着されて抗凝固作用を失うと言う事は臨床経験上ありません。

作用機序

トロンビン、第X因子、第XⅡ因子、カリクレイン、プラスミン、補体活性化酵素など凝固線溶系だけではなく、体外循環による生体反応過程を阻害しうる薬剤になります。

 臨床でも膜素材、透析条件を変えても回路凝固が著しい患者様でもナファモスタットで解決するという話は有名で、補体活性過程の阻害でメディエータの励起作用を弱めていると考えられています。

 ナファモスタットはトロンビンをATⅢを介さず直接阻害するのも特徴で、ATⅢの低下も防ぐ事もできます。

トロンビンを阻害するのでもちろんACTによる抗凝固モニタリングも可能です。

 

半減期

5〜8分と半減期が短く、体内還流後全身循環で希釈され抗凝固作用は体外循環回路内にとどまると言われています。

 

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