透析の針はおおむね15Gから18Gを使うのが一般的だと思います。
このG(ゲージ)という単位ですが、本当の呼び方をBWG(British Imperial Standard Wire Gage)といいイギリス生まれの単位です。
似ている単位にAWG(アメリカワイヤーゲージ)などがありまして、同じく金属ワイヤーの単位ですが、こちらのほうは単位の問題でmm変換が0.2mmほど小さいので注意。
まぁどちらも注射器針のサイズの単位ではなく、元もとは金属線の単位です。
それでは透析で使われている15G〜18Gまでの留置針ですが、どのくらいの直径や流量特性があるのでしょうか?
透析針の太さ
BWG 外套/(内筒) |
外套の直径(mm) | 内筒の直径(mm) |
18G(20G) | 1.245mm | 0.8839mm |
17G(19G) | 1.473mm | 1.067mm |
16G(18G) | 1.651mm | 1.245mm |
15G(17G) | 1.829mm | 1.473mm |
14G(16G) | 2.032mm | 1.626mm |
この値は換算表にて算出したものですが、メーカー資料にもほぼ同様の値が書かれています。
太さによる流れの違い
上図はメディキットのデータですが、jis T3249という流量試験方法にのっとって算出した値になります。
高さ1000mmから落差を用いた実験で、たった数ミリ直径や長さが変わるだけで17Gで145ml/min 15Gで285ml/minと全くかけ離れた値になっています。
この実験ではポンプによる駆動力を与えていないので血液ポンプを使用して設定流量との乖離を知る事はできませんが、おおよその性能を知る事は可能です。
しかしながら、水で実験している為本当に血液を流した時に血液流量がとれるのか?がわかりません。
高さ1000mmですので高さ水頭でいうと1000mmH2oです。
だからmmHgに直すとおおよそ70mmHg程度の圧力が針接続部に加わっているはずです。
菅径と粘度と針の長さと血液流量
ハーベンポアゼイユの法則
ハーゲンポアぜイユという式をご存知でしょうか?
乱流でない流体が管の中を通る時の関係式です。
この式は図のように流量が管のある地点からある地点の圧力差と半径に比例します。
また、流量は流体の粘性と管の長さに反比例するのです。
このハーゲンポアゼイユの式はもちろん透析の留置針と血液の関係でも成り立ちます。
16Gを基準にすると粘性係数μは除水を行わなければ血液粘性は変わらないはずなので定数とみなせます。(しかしほとんどの透析では除水を行うので粘性係数は上昇し、粘性係数は流量に反比例するので透析後半は流量が下がるはずです。)
また、針の圧力損失ΔPも針の長さで変わりますが透析中に長さは変わらないので定数と見なせます。
透析の針の違いで流量が変化する最大の要因は半径rと針の長さLと言えます。
とくに半径rは4乗されるの管径は流量に対して最大の因子といってもいいでしょう。
それでは16Gの針を基準として半径がどの程度違うのかみてみます。
流量は各ゲージ数の”半径の4乗”に比例するはずなので下記のようになるはずです。
半径 | 16Gを基準として何倍か? | 16Gに対して流量は何倍になるか? | 16GのMax流量が250ml/minだっと時の相対的なMax流量 | |
18G | 0.6225 | 0.75408843倍 | 0.32倍 | 80 |
17G | 0.7365 | 0.89218655倍 | 0.63倍 | 158 |
16G | 0.8255 | – | 1倍 | 250 |
15G | 0.9145 | 1.10781345倍 | 1.46倍 | 365 |
14G | 1.016 | 1.23076923倍 | 2.3倍 | 575 |
上の表では16G 針の長さ30mm前後の留置針のMax流量が250ml/minだとしたときの各ゲージ数の相対的なMax流量を計算してみました。
ゲージサイズの違いで圧力損失を無視しているので実際にはあと少しだけ流量が変動すると考えられます。
17GのMAX流量が158ml/minだなんて・・にわかに信じがたい値じゃないですか・・・?
実際には設定流量をこのMax流量以上に設定した場合、実流量と乖離するという現象がおこるはずです。
たとえば17Gの針をもちいて200ml/minで回すと机上計算でのMax流量は160ml/min付近ですから過大な陰圧がかかるとともに実流量は180ml/min程度になるとかです。
その実流量と設定流量の開きを乖離とよび、乖離率で表されたりしています。
上記の例では200ー180=20/200 = 10% の乖離となります。
論文からゲージ数と流量の関係を導き出す
机上計算ではにわかに信じがたい値がでました・・・
よく使われている17G 30mmの針が160ml/min前後がMax流量だなんてありえるのでしょうか?
そこで医学文献検索サービスを利用してどのような値が導かれているか?を調べてみます。
まず医学論文検索サービスはメディカルオンラインを利用しました。
ほかにciniiやpubmedがありますが、日本では透析治療がガラパコス化しているので、日本の論文をさがせるサービスにしてみます。
検索用語は”透析” ”針” ”流量” としました。
結果はなんと54件がヒットして、その中で、透析時の針の違いにより設定流量と血液実流量がどれだけ違うかという目的の論文は6件存在しました。
ほとんどの論文で、透析針の長さが記載されていませんでしたが概ね17G〜14Gの針の実流量を計測しています。
高流量の計測は最大でも400ml/minで、私の机上計算での14GMax流量の500ml/minを超える流量の計測は残念ながら計測されていませんでした。
この6つの論文の結果から留置針のゲージ数と実流量との乖離率を表してみます。
ちなみにこのデータは牛血など血液粘性を考慮したデータです。
150ml/min | 200ml/min | 250ml/min | 300ml/min | 350ml/min | 400ml/min | |
14G | 0.5% | 0.5% | 1.5% | 3.4% | 4.7% | 6.4% |
15G | 0.6% | 0.5% | 3.5% | 4.9% | 6.6% | 9.1% |
16G | 3.4% | 5.9% | 8.4% | 11.2% | 15.1% | 20.1% |
乖離率のカットオフ値を6.5%で区切ると
14Gなら400ml/minまわしても乖離率は低く設定流量どおりの流量を保てています。最大値はわかりませんが、計算上でも500ml/min程度まではいけるのではないでしょうか?
15Gなら350ml/min未満までなら乖離なくいけています。
16Gであれば250ml/min未満なら乖離なくいけます。
17Gだと180ml/min前後程度なら乖離なくいける感じです。
わかりやすく図にしてみました。
針の選択で実流量も大きく変化するので、どのくらい流量を設定するのか?で針の選択を行うと良いとわかりました。
また、18Gや17Gの流量性能が低いという事もあらためて認識できましたし、おどろく事にほぼ、ハーゲンポアゼイユで計算した値に実流量は収束しています。
180ml/min以下の血流量では16Gや15Gの選択はいうまでもなく意味が無いばかり患者さんの負担でしかないし17Gを使っての200ml/min以上の血流や16Gを使っての250ml/min以上の血流設定は血液ダメージを強くする傾向がつよく、高血流による恩恵を著しく低下させています。
できれば図のような針の選択を行い、設定流量と実流用を近似させる必要があると思います。
ただし血液の粘度や透析の針の長さに実流量はひきづられるのでこの因子は考慮にいれておいたほうが良いですね。
ぜひご参考になさってみてください。