シャント穿刺時の角度はどの書籍でも15°から30°と記載されている事が多いいです。
また”深い血管”はそれよりもきつい角度で穿刺しないと表皮と血管の穿刺穴のズレが大きくなり、止血困難になったり皮内組織に血液が漏れる原因にもなります。
そこでしっかりと穿刺角度と刺入の長さを体感でもって認識しておかなければ透析エキスパートとは言えません。
透析穿刺に必要な数学的知識
必要になるのは三角関数だけです。三角関数は角度と三角形の一辺の長さを元にその他の辺の長さを求める事ができる数学の初歩です。
実は三角比によってどのくらい刺入すれば血管壁に到達するのかを予め知る事ができるのです。
そうすれば針が”このくらい入ったら”もう少しで到達するなという憶測を立てる事ができます。
上図は一般的な30mmの透析針としています。
深さがyとして
刺入角度を30°とします。
この時のx、すなわち皮膚刺入部から血管外壁までの距離は
x=y×1/sinθ
で求める事ができます。 θのところが角度の30が入るのですが、中学校でならいましたね?
sinθはc/aです。
今回はaを求めたいので
a=c/sinθとなるわけです。
実際には比で求めるのでa=c×c/sinθとあいなります。
sin30°は1/2です。
だから単純に30°で刺す場合は血管までの深さに2を書けると血管外壁までの距離がでるのです。
血管の深さによる違いについて
それじゃどのくらい違ってくるか計算しましょう。
上図のように血管の深さが5mm程度と一般的な血管の深さであれば、1cmで血管まで届く計算になります。
ですので止血するときも穿刺した穴より中枢側1cmも抑える必要があるのです。
針の入れる感覚も一般的な針の長さである30mmの針の場合、1/3が入った時に血管の外壁に到達します。実際にはベベル(内筒のカット面)が5mmあるので針の外筒を確実に血管内腔に挿入するには15mm以上の刺入が必要とわかります。
次に中か深いところに血管がある場合です。
血管の深さがもし1cmだったら、なんと2cmも針を進めないと針先端が血管壁に到達しないのです。
血管内腔までと考えると25mm以上は進めないとダメです。
30mmの針なら、もうほとんど入れないと到達しない計算になります。
これが60°となるとまた話がかわりますが、三角比を知って入れば透析穿刺時にもやくに立つ事がわかります。
だから深い血管は鋭角に刺して、外筒が血管に十分に到達したら、後壁を貫かないようにする為に針をねかして針を進めるという手技の正当性がわかります。