透析時の起立性低血圧 原因と対策

透析患者さんは透析中の急激な血圧低下や常に血圧が低い常時低血圧のほかに透析が終わった後にベッドから起き上がろうとしたり、立ったりするとたちまち血圧が下がる起立性低血圧があります。

今回はそんな透析患者の起立性低血圧についてガイドラインをからめた原因と対策について考えてみたいと思います。

起立性低血圧の定義

低血圧の一種で、安静臥床後起立した際に血圧の低下(一般的には起立後3分以内に収縮期血圧で20mmHg以上、拡張期血圧で10mmHg以上の低下[1])が見られるもの をいう。

 

透析患者の低血圧に関するガイドライン

日本透析医学会でのガイドラインで起立性低血圧について記述があります。

ガイドラインの名前”血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン”です。

 

 

低血圧の分類

このガイドラインインよれば透析患者における低血圧の分類は

  • 透析中の急激な低血圧
  • 起立性低血圧
  • 常時低血圧

となっています。

透析関連性の低血圧はShoji らの 1,000 例以上を対象とした観察研究でも, 透析中の急激な血圧低下(収縮期血圧 30 mmHg 以 上) や透析終了後の起立性低血圧は予後不良と相関していることが報告されており、心血管合併症としてとても重要なものと言えます。

 

起立性低血圧の原因

ガイドライン上での起立性低血圧は”糖尿病”による自律神経障害で多いと書かれていますが、その他にもたくさんの原因があります。

 

糖尿病性自律神経障害

生理的には血液透析による除水によって循環血液量が減少↓すると、自律神経反射により血管は収縮し血圧低下を予防します。

しかし糖尿病性自律神経障害のある患者では、このような反射の障害が透析終了時の起立性低血圧の主な病態といえます。

循環血液量が低下すると血圧低下を防止する代償性の自律神経反射が生じて抵抗血管が収縮しますが,障害例では、その反射が機能せずに血圧が低下します。

診断では起立試験やバルサルバ試験などで評価することも有用です。

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循環血液量の減少と心収縮力の低下

急性の起立性低血圧の原因は糖尿病の患者以外にもみられる場合があります。

そんな患者の起立性低血圧の原因で最も多いのは循環血液量の減少と心収縮力の低下のどちらか一方かまたは両方が原因になっている事が多いと言われています。

やはり透析での除水が関連している事ですが普段より体重増加が多い場合に多くの除水により循環血液量が減少し透析終了時の急激な起立に伴って重力負荷が生じると,下肢および体幹の容量血管に血液が貯留(1/2~1L)します。

続いて起こる静脈還流量の一時的減少により、心拍出量が低下し、その結果として血圧が低下するのです。

酢酸透析

中本らは、糖尿病と非糖尿病の透析患者において酢酢酸・重曹透析中の血行動態を調べています。

糖尿病透析患者では重曹・酢酸透析の両者において透析中に心拍出量の低下がみられたが、重曹透析では末梢血管抵抗が維持されたのに対して酢酸透析では末梢血管抵抗が低下し低血圧が助長されることを示していました。

糖尿病では自律神経障害以外に心筋機能自体にも障害があることを示したものであろうと言われています。

ですので、透析液の種類によっても起立性低血圧を助長する原因になりえます。

足の筋力の減少

起立性低血圧は自律神経異常や組織液のrefilling rateの遅延が主因をなしていますが下肢の筋力低下も無視できません。

すべての静脈でそうですが下肢静脈には弁があり、立位になったとき血液が下方へ落下しないように機能しています。

下肢の血液が弁を通して上方へ運搬されるためには、弁より下部にある血液を持ち上げる力のほか、上方からの血液の重さを受けて閉鎖している弁を開通させる力を必要とします。

この力は静脈周囲の筋収縮によって得られますが、この力が得られない場合には、静脈還流量が減少して起立低血圧をもたらします。

長期臥床患者にみられる起立性低血圧の一因には下肢筋力低下が関与している可能性が大なのです。

従って、慢性透析患者の長期臥床や長期入院はこれら面からも避けるべきで、積極的な運動療法が必要なのです。

 

その他の原因

透析液の温度(高温)や貧血,透析中の食事摂取,薬剤(メシル酸ナファモスタット、ACE阻害薬など)によるアナフィラキシーショック、透析膜によるいわゆるfirst use症候群、滅菌に用いられるEOGなどによる血圧低下、アセテート透析液なども原因として重要とされ説明困難な低血圧発作については鑑別すべき要因です。

まぁ端的に言うと要はわからないと言う事なんです。

その中でもあまり知られていない低血圧の原因についてピックアップしておきます。

除水にともなう臓器虚血が原因の低血圧

臓器虚血がアデノシン産生を促進してノルエピネフリンの分泌を抑制する結果、末梢血管抵抗 の減少をきたす機序、すなわち血圧が下がるという原因も述べられいます。

 

逆説的反射性血管収縮障害

除水によって左室内への血流流入量が減少し、心拍の「から打ち状態」が生じ、結果として交感神経刺激が抑制され心拍数の低下と末梢血管抵抗の減少に伴って血圧が急激に低下する機序などが発表されています。

 

起立性低血圧の対策

自律神経障害が主因として関与している起立性低血圧の場合はDWの上方修正や昇圧薬投与で対処することになりますが、起立性低血圧の予防にはこれっといったものがなく、各患者の原因に合わせた対応が重要になります。

薬物両方ではノルアドレナリン作動性神経機能改善剤ドロキシドーパやノルアドレナリン作用を増強させるメチル硫酸アメジニウムなどを投与したり、ドライウェイトの設定を慎重に行い,低栄養や心機能障害を評価する必要があるというのは言うまでもありません。

他にも長期臥床を避け歩行訓練などで下肢筋力を増強させたり下肢への弾力包帯の使用が有効なこともあります。

さらに透析液温度を35度程度の低温透析液設定で行うと低血圧症状が落ち着く事もあります。

自律神経異常に対しては適切な自律神経訓練法はまだ確立していないないのが現状です。

 

現時点では起立性低血圧に対しては各患者の原因を特定し、総合的に低血圧予防を行うしかないでしょう。

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