MEPとは運動誘発電位といい整形外科、脳外科、耳鼻科城域などでの手術中の運動神経機能評価に用いられる術中モニタリングのひとつです。
”運動誘発電位”と聞くと難しそうですが、脳の運動野を電気で刺激して末梢の筋電位をモニタ、手術中の手技などにより神経伝達路や運動野に障害を発生させていないか、或いは手術手技により障害の回復が見込めるかを術中からモニタリングする事を言います。
実はその歴史はとてーも浅く、現在の標準的なMEPの方法は20年程度の歴史しかなく、いまだ黎明期(れいめいき)といっていいでしょう。
そんなMEPですが、ネットでは様々な方法や記録メソッドが入り乱れ方法が統一されていないというのが正直なところです。
ですので、今回は標準的な描出方法とモニタリングについて説明していこうと思います。
まずはMEPの歴史について
1954 年にPattonとAmassianはサルの運動野の直接電気刺激により錐体路の直接的な電位D-waveとシナプスを介した電位I-waveが検出できることを報告しています。
1980年には Mertonが単発の高電圧経頭蓋電気刺激により、末梢の筋肉から(運動誘発電位)MEPを記録しています。
しかし全身麻酔下では興奮性シナプス後電位(EPSP)が抑制されるため誘発筋電図が記録できないのですが、麻酔の影響を受けにくいD-waveは硬膜外で記録できます。
その為、手術時の運動機能モニターの一手段として使用されましたが、頚部への硬膜外カテーテル電極の挿入が必要で侵襲的であったので、爆発的な普及には至りませんでした。
侵襲的な硬膜外記録とは別に単発刺激での経頭蓋電気刺激による全身麻酔下での誘発筋電図の記録も試みられました。
単発電気刺激は通常の全身麻酔下では誘発筋電図を記録できないため、覚醒に近い状態や最もMEPへの影響が少ないケタミンが使用され記録されてきました。
しかし、術中覚醒の可能性や麻酔の特殊性などから一般化はされませんでした。
1993年にTaniguchiらは開頭手術で脳表の運動野を 3 ~ 5 連のトレインパルスで電気刺激することでEPSPを蓄積(summation)させ、発火閾値に到達させ、誘発筋電図が記録できることを報告してます。
これは画期的な発見で反響を呼び、1996 年には経頭蓋電気刺激をトレインパルスで行う方法も報告されました 。 日本においても経頭蓋電気刺激をトレインパルスで行う刺激装置とプロポフォールが普及することで全身麻酔中でもMEPを安定的に導出できるようになったのです。
MEPがとれる機器
MEPがとれる術中モニタリング機器についてご紹介します。
上記2社が日本の術中モニタリングのシェアを合わせて9割程度占めています。
MEPだけではなくSEP、ABR、VEPなども取れたり、なにより同時にモニタリングできるチャンネル数や付加価値で値段が跳ね上がっています。
磁気刺激の装置もありますが、術中モニタリングをするのであれば上記2社で間違いないかと思います。
あっちなみにメドトロニックが販売しているNIMレスポンスは今回説明するMEPとは毛色が少し違います。
NIMは神経を直接刺激または神経周辺を電気刺激する事によって得られる複合筋反応であるCMAPをモニタするものです。次回説明していこうと思います。
刺激部位と刺激方法
刺激部位
刺激部位は大きく分けて2種存在します。手術部位などにより刺激部位を考慮します。
基本的には
錐体路(大脳運動野ー内包ー脳幹ー脊髄側索ー脊髄前角細胞ー運動神経ー筋肉)の評価ができます。
1、直接脳表刺激:硬膜を開けて、運動野を直接脳表から刺激する方法
この方法はでは脳表にピタッとはりつけて刺激するシート電極を用います。
場所の決め方はSEP:体性感覚誘発電位をまずとる事が多く、求心性感覚神経よりSEP波形をとって運動野を特定しその部位を刺激するという方法がもっとも確実です。
この波形を読みとって運動野を見極める事がけっこう慣れるまでは難しく思うかもしれません。
SEP波形ですが、感覚野と運動野を境に波形が反転する事が知られています。
反転している境目が中心溝というわです。
今回は深く説明しませんが、いずれUPいたします。
2、経頭蓋刺激:頭皮に電極を刺して経頭蓋から刺激する方法
経頭蓋より、スクリュー電極や皿電極、針電極により頭皮より刺激を行う方法です。
経頭蓋より運動野を刺激しなければならないので、頭部の決まった部位に電極を設置します。
基本的には脳波を記録する為の10−20法(テントゥエンティー法)の描出部位を参考に電極を設置します。
多くの施設では手や足の運動野付近のC3、C4の部位に電極を設置します。
病院によってはCzから2cm程度後方にずらしてから左右に6−7cm程度の部位に電極を設置しているところもありますが、基本的にはC3、C4で記録できるでしょう。
C3、C4のとりかたは
まずはCzの点をとります。
両目の間の鼻の付け根の凹んだ部分(鼻根)と、後頭部の1番突出している部分(後頭結節)を線で結びます。
さらに、耳のすぐ前かつ頬骨根部のすぐ真上にある陥凹する部分(耳介前点)を結びます。
この二つの線どちらも二分にする点をCzにします。
Czは、Vertex(頭蓋頂)とも呼ばれ、10/20法の中央部に位置する点です。
左耳~右耳の線を分ける
左右の耳介前点とCzを通る線上にメジャーを合わせ、
10%、20%、20%、20%、20%、10%となるように分け、T3、C3、C4、T4とします!
Czから左右に6-7cm離れた点をC3、C4としてもOKです。
刺激方法
刺激方法は脳表刺激と経頭蓋刺激での違いは電流もしくは電圧の強度が異なる程度でそれほどの違いはありません
まず刺激の基本となる点について説明します。
トレイン刺激
刺激電位はトレイン刺激になります、トレイン刺激というのは、前節のMEPの歴史でお触れていますが、手術で使用する麻酔によって単発刺激ではMEPはとれないのです。
そこで考えだされたのが、短い時間の間に4から5回の刺激を繰り返すトレインパルスという刺激の方法です。
このトレイン刺激を行う事で麻酔によるシナプス電位の抑制がなぜか発火閾値を超え、末梢の筋肉まで伝わるのです。
図で示しているのはパルス数によるEPSPいわゆる、”興奮性シナプス後電位”の発火状態を示しています。
1パルスではEPSPはthreshold(閾値)を超えません、2パルスではもうちょい、4パルスではEPSPが山形に蓄積されThreshold(閾値)を超えてCMAP(複合筋反応)として末梢の筋肉が収縮するのです。
トレイン刺激は4〜6連発が多い(とくに標準は5連発)のですが、どのような間隔のパルスかが問題です。
もっとも標準的なパルス間隔はパルスの立ち上がりから次のパルスの立ち上がりまでの時間(T)を2msecとすると周波数はf=1/Tなのでf=1/0.002secとして f(周波数)=500Hzです。
刺激強度
経頭蓋刺激は簡便さから定電圧刺激が一般的になりつつあり、200−600V程度で刺激します。
直接脳表刺激の場合は定電圧刺激で行う事はまれで、定電流刺激を用います。
SEPで運動野を特定後、もしくは運動野と思われる部位を5mA−MaXでも20mA程度までの電流で刺激します。
刺激強度は最小の刺激強度から徐々に強度をあげていき反応がでた閾値より、20%程度増強した強さで刺激する方法が一般的です。
しかし、整形外科領域での脊髄部位の手術の場合は経頭蓋刺激で最大上刺激する事が一般的であります。(定電圧刺激で400V〜600V程度)
モニタ部位と記録の設定
刺激の事がわかったところでこんどはモニタ部位と記録の設定について述べます。
モニタ部位の筋肉は上肢と下肢と3ch以上とる事が望ましいとされています。
モニタリングする末梢筋肉は任意の神経の支配領域の筋肉を選びます。
しかし、ハムストリングなど大きな筋肉群は比較的反応が出にくい事で有名です。
比較的モニタ部位としてよく選ばれる筋肉を記述しておきます。
よくモニタリングする筋肉
上肢
短母子外転筋 APB
椀橈骨筋 Brachio
他にも上腕二頭筋や上腕三頭筋、三角筋などをモニタリング筋肉とする事があります。
下肢
前脛骨筋 TA
母趾外転筋
他には下腿三頭筋や四頭筋なども選択されます。
が、やはりハムストリング系は反応が出にくいです。
モニリング用の針
筋電図をモニタする針には上記のような針が存在します。
用途に合わせて選べます。
特に注意が必要なのは、筋電図をモニタするという意味で、筋肉に針を刺さなければならないと勘違いしているDrや技師さんがいますが、最近のサブダーマル針はほとんどが表皮電極であり、モニタしたい筋肉付近に設置すればOKのものがほとんどです。
刺し方ですが、2本とも筋腹付近に刺しますが、場合によっては筋腹と健付近に刺す場合もあります。
もちろん表皮電極なので、筋肉が近くにある部位が好ましいとされます。
モニタ時のフィルター
刺激時にモニタリングしていくわけですが、バンドパスフィルターをもちいないのノイズがのり正しくモニタリングできません。
四肢のMEPとしては施設間でばらつきはありますが、おおよそ5ー3000Hz帯をのみモニタするバンドパスフィルター設定を行います。
基本的なモニタリング例について
脳外科の右側頭葉脳腫瘍(運動野にかかる)の術中モニタリングの例を示します。
刺激は経頭蓋刺激とします。
経頭蓋刺激はプラスとマイナスがありますが、プラス側で刺激するイメージで!
例えば脳外科の脳腫瘍で右側頭葉の手術であった場合、C4の右コイル電極をプラスにC3の左コイル電極をマイナスの刺激プローブに刺します。
もちろん手術する側の右側頭葉の運動野を刺激したいので、反応を見るのは反対の左上肢と左下肢になります。
右上肢・右下肢との反応を違いもモニタしておく意義があるので両上肢・両下肢をモニタリングする事が望ましいです。
整形外科の場合の経頭蓋電極の極性は正直どちががプラスでもマイナスでもOKです。
反応がの違いが気になるなら、極性を変えて刺激する方法をとります。
モニタリングしたい筋肉にはプラス、マイナスと2極の針を筋腹にさします。
また、筋電位の中点をとる為にアース電極も刺します。
アース電極は本来どこでも良いのですが、刺激部位とモニタ部位(患側)との間に設置する事が望ましいです。
刺激電極(+と-の2本)、モニタ電極(各筋肉に2本ずつ)、アース電極(一本)が設置できたら設定どおりのコネクタに位置に設置したら準備完了です。
機器によっては電極の状態を確認できるインピーダンス測定で電極の良否を判定できる機能があります。
手術前に一度刺激をしてみて刺激強度の決定とコントロール波形の決定を行う事をします。
この時の注意点は、筋弛緩薬(気管内挿管や麻酔導入時に使用した)を使っている場合は使用してから1時間程度あけないと波高値がひくいMEP波形となる事があるので注意です。
また静脈麻酔でもMEPが抑制される場合があるので、TOFによって麻酔深度を一定に保つ事も必要な場合があります。
麻酔科との連携も良質な術中モニタリングを行う上で重要となるのです。
刺激は体が動くので、必ず術者の指示のもと行います。
MEP波形は波高値と潜時をモニタリングしていきます。
一応ですがMEP波形の波高値が元のコントロール波形より50%低下でコールというのが一般的です。
しかしMEPの波高値は流動的でなかなか安定的な値にならない事も事実であり、一概にはいえません。