はじめに

脳神経外科手術時に行われる術中モニタリングの中でABRと言われるものがあります。

このABRですが、正式名称を聴性脳幹反応( Auditory Brain-stem Response : ABR )といいます。

いままで、MEPやSEPやAMRといった電気刺激後に得られる筋電図変化や脳自体の誘発電位とは少しだけ異なり、電気刺激を行わず、耳からの音刺激で脳幹に発生する電位を記録するという一風変わった術中モニタリングになります。

このABRは、赤ちゃんなど意思疎通がとれない患者の聴覚検査で有名で、聴覚障害のスクリーニングによく利用されています。

ここ数十年で、大きな大学病院だけに限らず地方都市の脳神経外科領域の手術の際にもこの聴性脳幹反応が行われるようになりました。

ABRの波形について

ABRの特徴は麻酔や意識状態の影響を受けにくく極めて再現性の高い波形が得られる事で波形の変化によってどこに障害があるのか場合分けできる事が特徴といえます。

またMEPやSEPと違いABRの波形は1から7つ程度の波形で形成され、その波形の位置で聴覚伝達路のおおよその位置が決まっているといわれています。下図↓

 

どのような手術でモニタリングするのか?

すばり聴神経付近をいじる外科的手術の際にモニタリングする事が多いです。

たとえば、小脳橋角部腫瘍では腫瘍摘出に伴う聴神経への直接的な影響や、顔面痙攣や三叉神経痛などで実施される微小血管減圧術などで小脳の圧排や聴神経の引き延ばしが外科手術による聴力障害の主な原因になります。

 

 

下図は顔面痙攣による微小血管減圧術のわかりやすい画像です。

聴神経とそれに密接した顔面神経の位置的な構造図が示されています。

この付近に微小血管だけでなく腫瘍などがあればABRをモニタする意義があります。

また、術野を得る為、脳ベラという器具で小脳を圧排(へらでよける)するので、聴神経が引っ張られたりして聴力障害がおこる事があります。

 

↓脳ベラ

 

上記のような手術に伴う難聴の予防や術後の聴力温存を目的にするのが、ABRとなるのでーす。

 

 

モニタリングの実際

電極の設置

電極の設置は下図のように簡単で、Czの位置にプラス電極、右耳付近にマイナス、左耳付近にもマイナスです。

特に左耳右耳の設置位置は耳の前に電極を設置するのは希で、神経叢や静脈があるので避けた方がよいでしょう。

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耳の後ろ側の乳様突起に設置するようにと解説する書籍もありますが、手術の邪魔になる事があるので、耳たぶに電極を設置する事をおすすめします。

右耳の電極をA1、左耳の電極をA2といいます。

 

電極設置のポイントですが、同じく耳に電極を設置するSEPとは極性が反対なので注意する事!!波形が反転します。

 

アース電極もノイズの少ない波形を得る為に必須です。設置はどこでも良いのですが、肩や胸など頭部にやや近いほうが電線を長くさせないノイズを拾わないようにすると言う点で良いようです。

どのような波形を記録するのか?

なぜSEPと記録電極が反対なのか?というと下図が参考になります。

まず上図のようにABRで耳から音刺激を行うと、脳幹部での反応から遠位場電位が発生します。

SEPのように局所的に電位ができるわけではなく、ABRは広い範囲で電位がとれます。

ですので、図Aのように探査電極(ピンク)と記録電極(青)の位置が多少動いても記録できます。

ABRの電位ですが、耳付近の領域がマイナスになり、頭頂部付近がプラスに分極する事が知られています。

ですので、耳につけた記録電極がマイナスですので、頭頂部のプラスの電位は耳付近のマイナス電位に向かってくるように記録されます。

ですので、耳につけたマイナスの記録電極では電位が向かってくるように記録されるので上に凸の波形となります。

 

SEPの場合は近接場電位なので、マイナスの記録電極は感覚野や運動野に配置され、基準電極のプラスを耳におく事で波形を得ます。

ですので、SEPでの耳付近の電極とABRでの電極では意味あいが異なり極性を間違ってはいけません。

 

記録電位について

上図が基本的なABRの図です。

通常ⅠからⅡ波までが蝸牛神経核、Ⅲ波は上オリーブ核、Ⅳ波は外側毛帯、V波は下丘と言われています。まぁ報告者によって若干違いはあります。

脳神経外科領域の術中モニタリングでは再現性の高い第V波をモニタリングします。

 

MEPと違って体が動かないので、術中でも記録者のタイミングでモニタリング可能です。

 

第V波はおおよそ6msの潜時(刺激して反応があるまでの時間)で波高は1μV程度です。

 

術中では数値で時系列的なモニタリングをしたり、視覚的にすぐに潜時の延長がわかるようにグラフに線を引くという確認方法がモニタリング機器によって存在します。↓

手術前の波形をコントロール波形としてそれからどのように変化したかをモニタリングしていきます。

 

 

ABRの刺激および記録条件

刺激条件

刺激強度:100db程度

刺激幅:0.1msec

刺激頻度:15Hz程度

 

記録条件

記録電極:
Ch1:A1ーCz
Ch2:A2ーCz

フィルター:20〜1500Hz程度

加算回数:1000回

分析時間:10msec

 

注意点

ABRのモニタリングの極意はノイズ低減にあります。

ABRの波形自体が小さいのでノイズがあればモニタリングができません。

A1,A2,Czなどの記録電極はできる限りコンパクトにまとめ、金属に触れないように配線する事もノイズ低減に役立ちます。

施設の機器配置も関係しますが、電界強度が高い電気メスやまた、電源に大きなトランスが組み込まれている機器(重いもの)などは可能な限りモニタリング関連の装置や電極から遠ざけるなどの工夫で良質な波形が得られるようになります。

 

さらに、加算回数は必ずその回数を行わなければならないというわけではなく、良質は波形が得られればよいのです。

術中モニタリングの目的は術後の難聴などを極力防いだり、術後障害を術中より知ると言う事に意義があります。

ですので、目的としている波形の潜時や波高がわかればよいと言う事です。

 

 

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