臨床工学技士と看護師の為の術中モニタリングSEPについて

はじめに

SEPとは体性感覚誘発電位といって、抹消の手足の神経へ電気刺激を行って求心性の感覚神経を刺激する事によっておこる感覚野の誘発電位の事です。

 一般に、上肢(正中、尺骨神経)あるいは下肢(後脛骨、総腓骨神経)の末梢神 経を、皮膚表面から電気刺激して記録されます。

 その伝導路は末梢神経大径有髄線維、 脊髄後索、内側毛帯、視床、大脳皮質感覚野と考えられており、その経路の途中のど こかに病気があれば、それよりも中枢側にある電極での反応は異常となります。体性 感覚障害(特に脊髄後索系)、脱髄性疾患のスクリーニング、脳血管障害の予後推定、 脊椎・脊髄の術中モニターなどによく使われています。

 

MEPは脳の運動野を刺激して抹消の筋電図変化をみて神経の温存を目的にモニタリングしますが、SEPは痛みなどの感覚を伝える感覚神経の温存を目的にモニタリングするのです。

 

簡単にいうとMEPは脳刺激で抹消筋肉が動く事を確認、SEPは抹消神経を刺激して脳が痛みを感じるか脳の反応電位で確認といったところでしょうか?

 

 

今回はそんなSEPについて述べていきます。

 

 

SEP記録電極の設置

まず、SEPを行うにあたって必要になるのは電極の設置場所とSEP波形の読み取り方になります。

基本的なSEP頭部電極の設置方法は下図の通り。

基本的な電極設置は下図ですが、マイナスのCP電極を脳表シート電極にしたりと様々な電極設置方法が派生します。しかし、下図の設置方法を知っておけば応用可能ですので最後までラーニングしてください。

まずは図で示すCPの点が探査電極になります。この探査電極がマイナスである事が重要です(あとで説明します)。

そして、左の耳のA1にプラスの電極(基準電極)を設置(モニタリングが左の場合)します。

もし右のSEPをとるのであればマイナス電極を右のCPにして右の耳のA2にプラスの電極(基準電極)を設置します。

 

さらにアース電極(ボディアース)が必要になります。

図ではアース電極はおでこ付近に設置していますが、じつはどこでもOKです。

任意の場所でOKですが、一つだけ注意点があります。マイナスのCPの点とプラスのA1もしくはA2の点とは少し離した場所になるようにしましょう。

たとえば肩やおでこなどです。

 

刺激電極の設置

それと末梢から刺激は電極を設置したほうとは反対の四肢の神経に中枢側にマイナスが向くように刺激皿電極を設置する方法がよくとられます。

上図の頭部電極は左に設置しているので、刺激は右手の正中神経付近に刺激電極を設置します。(下図参照)

ポイントはマイナスが中枢側になるようにする事です。

 

 

 

SEPの波形について

SEPの波形は下図のような波形をとります。

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すこし難しい話になりますが、SEPは感覚野の反応ではなく中心溝を境とした感覚野と運動野付近でおこる電位を取る事に意義があります。

感覚野でSEPをとると上図のように上向きに凸の波形が得られます。

この凸部分をN20(ネガティブ20と言ったりします)

なぜ凸なのになぜネガティブ(マイナスの事)なのか?

それは探査電極に秘密があります。

 

まずSEPは末梢の感覚神経を刺激して中心溝付近の感覚野を興奮させます。

この時におこる興奮は感覚野付近に限局した反応でその電位も小さく、小範囲になります。

これを近接場電位といって、遠いところには電位差を生じさせません。(ECGみたいに腕とか足ではとれない)

 

上図がわかり易いですが、SEPで四肢を刺激した際に上図のように中心溝を境に感覚野はマイナスに運動野はプラスに分極する波形が得られます。

 

モニタリングの機器は心電図の描出とは異なり、上向きの波形がマイナス、下向きの波形をプラス側に描出しています。

ですので、SEPの探査電極はマイナスなので、マイナスに分極する感覚野ではマイナス側に凸の波形が得られます。

もし、運動野側にマイナスの探査電極をおいていると、運動野側はSEP刺激の際にプラスに分極するので、波形としてはプラスの方に傾く、すなわち下に凸の波形が得られ反転した波形になるのです。

ch1の探査電極は分極したプラス電位が離れていくような波形になるので下向きに凸になります。

ch2の探査電極は分極したマイナス側にあるので、プラス電位が向かってくるようになり上向きに凸となります。

 

 

もうすこしわかりやすい図で説明すると

感覚野に設置したマイナス電極を基準に考えます。

SEPの刺激を加えると中心溝を境に前の運動野がプラスに、後ろの感覚野がマイナスに分極します。

そうすると、マイナスの記録電極には緑の矢印のように、プラスの電位が向かってくるようになるので、波形としては上向きに凸の波形となるのです。

上向きがネガティブとなるのは昔からの決まりごとなので、そう覚えましょう。

要するに上に凸になる波形は感覚野であり、下向きになるのは運動野になると覚えておく必要があります。

ボディアースの役割

ボディーアースはおでこや肩などに設置しますが、意外と重要なのでここで述べておきます。

SEPなどに限らず、微小電位を記録するモニタリングの際にノイズを限りなく下げる目的の為にボディアースをとります。

忘れないように必ず設置しましょう。

 

運動野を特定する目的で行うSEP(シート電極使用)

MEP同様にSEPも求心性の神経伝達路の温存や感覚野自体の温存のモニタリングに役立ちますが、SEP波形が中心溝を境にして反転するという特徴を生かして運動野の同定に使われる事があります。

特にMEPを脳表から刺激を加える場合、ピンポイントで運動野を刺激しないと十分なMEP波形を取る事ができないのです。

そういった場合に16極の脳表刺激シート電極を用いて、SEPによる運動野の同定のあと、そのまま同定した運動野にシート電極を用いた刺激を行いMEPをとっていくというものです。

 

判定の方法は簡単で、運動野を同定するのでSEP波形が反転するところすなわち、P20の波形を探します。

P20の波形は運動野領域ですが、その中でも一番波高値が大きいものを選んで、MEPを行うと良質なMEP波形が得られます。

 

SEPの記録設定

低域遮断フィルターは 5~30 Hz
高域遮断フィルターは 1,000~3,000Hz くらいに設定します。
分析時間は上肢の場合 40~60 ms
下肢の場合 60~80 ms とし ます。
加算平均は500~1,000 回前後。
波高値はおおよそ1〜2μV程度なので全体でも10μV程度で観察できます。

 

SEPの刺激設定

a. 刺激電極の位置 電気刺激により陽極から陰極へと電流が流れ、陰極の場所で末梢神経が刺激されま す。感覚神経は末梢から中枢の方へ情報が上がっていくので、陰極は陽極より身 体の近位部におきます(orthodromic stimulation)。
b. 刺激頻度 上肢は 3~5 Hz 程度、下肢は 1~3 Hz 程度で刺激
c. 刺激強度 筋肉が軽く収縮する程度の強さで刺激。定量的に行う場合には、運動閾値の 10%上、あるいは感覚閾値の3倍を目安とします。
d. 刺激の持続時間 単相性矩形波の巾は200~300µs。
e. 接地電極 電気刺激のアーチファクトをできるだけ小さくするため、刺激電極より近位部に。

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